起業家教育とファミリービジネス研究、その両輪で活動
- 大場
- 今回は本NPOの設立間もない頃から理事を務めて来られた馬場研二さんにお話を伺います。まずは自己紹介をお願いします。
- 馬場
- 現在はサイバー大学で教授を務めています。
専門は経営学で、アントレプレナーシップやファミリービジネスについて教えています。
もともとは銀行員で、MBA留学を経て銀行を退職し、その後、福岡の150年続くファミリービジネス企業で15年間働いていました。
経営企画や新規事業、赤字企業の立て直し、子会社社長の相談役など、さまざまな立場で経営に携わってきました。
経営者がどのように意思決定をし、どのように組織を動かしているのかを間近で見ながら、MBAで学んだ理論を現場で実践してきた形ですね。
その経験が、現在のMIT-VFJでのメンタリング活動にも生きていると思います。
「創業」だけでは終わらない、アントレプレナーシップの本質
- 大場
- アントレプレナーシップやファミリービジネスという言葉に、まだ馴染みのない方も多いと思います。
少し解説していただけますか。
- 馬場
- アントレプレナーというのは、いわゆる創業者、起業家のことです。
そして、その創業した会社が二世代、三世代と続き、同族経営として継承されていくと、「ファミリービジネス」という形になります。
そこでは、単に会社経営だけではなく、「家族」という要素も含めてマネジメントしていかなければなりません。
どうすれば事業を永続的に続けられるのか。
その理論を研究したり、コンサルティングしたりするのが、私の専門分野です。
最近では「後継ぎベンチャー」という言葉もあります。
老舗企業の後継者が、第二創業のような形で新規事業に挑戦し、時代に合わせて事業を進化させていく。
これはまさに、ファミリービジネスにおけるアントレプレナーシップなんですね。
老舗企業であっても、新しい価値を生み出し続ける力がなければ、会社は長く続きません。
だからこそ、アントレプレナーシップは創業時だけのものではなく、企業経営そのものに必要な力だと思っています。
- 大場
- ファミリービジネスには、一般企業とは違う難しさがあるのでしょうか。
- 馬場
- ありますね。一般的な上場企業の経営は、「ビジネス」と「オーナーシップ」の二つで考えられます。
しかしファミリービジネスには、そこに「ファミリー」という要素が加わる。
この三つを同時に扱わなければならない。
だから、同族経営は非常に複雑性が高いんです。
この複雑性を理解しないまま事業承継をすると、三世代目あたりで問題が噴出しやすくなる。
昔から「三代目は会社を潰す」と言われますが、実はこれには経営学的な理由があるんですね。
江戸時代には「売家と唐様で書く三代目」という川柳があったそうですが、三世代目になると複雑性が増す。
結果として、舵取りが難しくなる。
ところが、その複雑性を体系的に支援する仕組みがあまりありませんでした。
そこが大きな課題だと感じています。
地域経済を支える老舗企業を守るために
- 大場
- 現在は、大学やコンサルティングを通じて、そうした支援をされているのですね。
- 馬場
- そうです。経営者がアントレプレナーシップを持ち続けて、永続的にその事業を続けていくことがファミリービジネスに繋がる。
例えば、地域の老舗企業。それらが存続できなくなると、地域経済そのものが弱ってしまう。
だから私たちは、事業承継だけではなく、「新しい事業を生み出し続ける力」をどう維持するかにも取り組んでいます。
老舗企業であっても、次の時代に合った事業を生み出せなければ、会社は続いていきません。
つまり、老舗企業にもアントレプレナーシップが必要なんです。
ファミリービジネスに対する社会的な認知は、この十数年でかなり広がってきたと思います。
私たちも2012年にファミリービジネスのアドバイザーを育成する協会を立ち上げましたが、それ以降、「ファミリービジネス」という言葉自体が徐々に知られるようになり、経営者の間でも理解が深まってきています。
最近では、経済産業省も中堅ファミリービジネスを支援する姿勢を打ち出しています。
同族企業の「ガバナンスをしっかり整えていきましょう」というガイドラインづくりも進められていています。
そういう意味では、ファミリービジネスを応援していこうという社会的な機運は、以前に比べるとかなり高まってきていると思います。
もちろん、このテーマ自体はMIT-VFJと直接重なるわけではありません。
ただ、私自身は、起業家支援と同じくらい重要な分野だと感じています。
老舗企業や地域企業が次の世代へと受け継がれていくことは、地域経済そのものを支えることにもつながりますからね。
「社長業」とは、全部やること
- 大場
- 以前のインタビューで、「社長とは何か」というお話をされていたのが印象的でした。
- 馬場
- 私は大学で「社長業」を教えていると言っています。
経営学というと難しく聞こえますが、要は「社長の仕事とは何か」をわかりやすく教えることなんですね。
では社長の仕事は何かと言うと…全部です。
例えば、一人で屋台を始めたら、仕入れ、調理、接客、会計、掃除…全部自分でやりますよね。
会社も本質的には同じです。
規模が大きくなると誰かに任せなくてはならないから、人を雇っていくようになりますが、最終的な責任はすべて社長にあります。
だから、不祥事が起きた時に記者会見で頭を下げるのは社長なんです。
「従業員が勝手にやったことです」と言ってしまえば、それはもう社長失格ですよね。
会社というのは、社長が責任を持ち、その役割を分権して組織として動かしているけれど、元々は社長ひとりが全ての責任を負う。
「アイデアを思いつきました。誰かやってくれませんか」は起業家ではない。
起業家というのは、最初は全部を自分で背負います。
もちろん、誰も手伝ってくれないから仕方なくやっている部分もあるかもしれません。
でも、「自分がやる」という覚悟があるかどうかは、とても重要です。
MIT-VFJのメンタリングでも、応募者に社長業をやるのだという心構えがあるのかを確認しています。
メンタリングとは、起業家自身も気づいていない弱点を可視化すること
- 大場
- MITベンチャーフォーラムは、メンタリングがとても特徴的ですよね。
かなり手厚く、経験に基づいたアドバイスをされている印象があります。
ただ、応募を検討している方からすると、「実際にメンタリングって何をするの?」という部分が、まだあまりイメージできていないのかなとも感じるんです。
- 馬場
- 今お話ししましたように、社長の仕事というのは“全部”なんです。
だからまず、「あなたはどこが得意で、どこが苦手なのか」を整理するところから始まります。
実は、自分の得意不得意を客観的に理解している人って、意外と少ないんですよね。
例えば、研究者出身の起業家なら、技術には強いけれど営業や販売は弱いかもしれない。
逆に営業畑の人なら、人事や組織づくり、仕組み化が苦手だったりする。
そうした“偏り”を、本人がちゃんと自覚できているか。
まずそこを見立てていくことが、メンタリングの大事な役割だと思っています。
だから、「そこ、弱いですよね」「ここ、こうした方が良いですね」と、外から指摘してあげることが重要なんです。
もちろん、すでに会社を立ち上げている方であれば、「今、どこを重点的に強化すべきか」をかなり具体的に議論していきます。
ただ、正直に言えば、まだ“十ある要素のうち二つしかできていない”という段階だと、もう少し経験を積んでから来られた方がいいかなと思うこともあります。
とはいえ、多くの起業家は、何かしら強い武器を持っています。
だからこそ、その強みを活かしながら、弱い部分をどう補完していくかを一緒に考える。
それがMIT-VFJのメンタリングだと思いますね。
- 大場
- メンターは、どんな方々が担当されるんですか?
- 馬場
- メンタリングに関心を持っている方々ですね。
当然、各人それぞれに異なるキャリアや専門性があります。
ただ、MIT-VFJの特徴は、起業家に対して非常にニュートラルな立場で向き合うことだと思っています。
例えば、ベンチャーキャピタルであれば、「早く成長してください」「投資に対してどれだけリターンが出せますか」という、ある意味明確な立場があります。
でも、MIT-VFJのメンターは少し違います。
「この起業家にとって、本当にベストな選択は何か」そこを一緒に考える。
起業家に寄り添いながら、親身に伴走するスタンスなんです。
だから、かなりフラットで中立的な視点から助言できるのが特徴だと思います。
- 大場
- メンター側に、見返りはあるんですか?
- 馬場
- 基本的にはありません。無償です。
ただ、その起業家の成長を見られること自体が、大きな喜びなんです。
もちろん、その後に顧問として関わったり、一緒に事業成長を支援していくケースもあります。
でも、コンテスト期間だけで終わることも多いです。
それでも、「この人が成長していく姿を見たい」という思いで関わっているメンターは多いと思います。
“すごい技術がある…それをどうしたらいいのか”――そんな起業家が集まってくる
- 馬場
- MIT-VFJのビジネスプランコンテストに応募してくる人には、難易度の高いテーマに挑戦している起業家が多い印象があります。
大学発の技術を実用化しようとしている人や、特許を持っているけれど販路が見つからない人。
昔は“緩まないネジ”を発明した起業家もいました。
技術は本当に素晴らしいのに、どう売ればいいかわからない。
その起業家についたメンターが3年かけて大手メーカーとの商談を成立させたケースでした。
最近はものづくり系も増えていて、「技術力はある。でも市場への届け方がわからない」という人たちが多いですね。
つまり、“本質的に価値のあるものを持っているのに、前に進めない起業家”が集まってきている感覚があります。
- 大場
- そういう時は、メンターが顧客候補を紹介したりもするんですか?
- 馬場
- もちろん、ネットワークの範囲でお手伝いすることはあります。
ただ、それ以上に大事なのは、「誰に、どんなストーリーで届けるか」を整理することなんです。
そこを壁打ちしながら、頭の中を整理していくことで、少しずつ前に進めるようになる。
専門性が高くなればなるほど難しさもあります。
誰もその分野を理解できない、ということも起こりますから。
それでも、セオリーに沿って丁寧に詰めていけば、道は開けていく。最適な支援者に出会える確率が高まります。
だから、諦めずに支援を続けていきたいと思っています。
“順位”ではなく、“可能性”を評価するコンテストへ
- 大場
- メンタリングの後に最終発表会があり、プレゼンテーションを行い、そこで賞も授与されますよね。
- 馬場
- はい。現在は「企業賞」という形になっています。
昔は一位、二位と順位をつけていました。
ただ、さまざまな分野・ステージのスタートアップが集まる中で、「どこが一番か」を単純に決めるのは難しいよね、という話になってきたんです。
着眼点、社会的意義、成長ポテンシャルなど、それぞれ異なる観点があります。
以前は、「一番業績を上げそうな会社はどこか」「成功しそうな会社はどこか」という見方が強かったと思います。
でも最近は、「この技術はすぐには売れないかもしれない。でも将来的に大きな価値になる」とか、「規模は小さいけれど、社会的意義が非常に高い」というように、多様な視点で評価する流れになっています。
実際、何十社もの応募企業を横並びで比較して、「ここが一位」と決めるのは、審査側にとっても無理があるんですよね。
だから今は、それぞれの起業家や事業の個性を大切にしながら、多面的に評価する方向に変わっています。
その流れは、BPCC(Business Plan Contest & Clinic)と言い始めた6〜7年前くらいからですね。
コロナ前には、すでにそういう考え方になっていたと思います。
成長性だけで評価されるベンチャーは、ベンチャーキャピタルが自然と支援しますからね。
逆に、私たちはそれだけでは測れない価値を持つ起業家を支援している部分もあるのかもしれません。
- 大場
- MIT-VFJのコンテストに応募することには、どんな価値がありますか?
- 馬場
- まずは、自分の考えを整理する機会として使ってほしいですね。
メンターとのコミュニケーションを通じて、自分の考えを整理し、ちゃんと外に向けて発信できるようになる。
それがすごく大事なんです。
もちろん、悩みが全部解決するわけではありません。
でも、自分がやろうとしていることを世の中に知ってもらうための、大切なステップにはなると思います。
実際、ここでプレゼンした内容を、その後の投資家面談や他のコンテストで活用して、次のステージに進んでいく人もたくさんいます。
- 大場
- 日本の経済や企業を応援する活動なんですね。
- 馬場
- そうですね。”希少な”起業家を支援することが、長い目で見れば、日本の経済を支えることにつながると思っています。
それが、僕たちのNPOとしてのミッションなんです。
だから皆、手弁当で頑張って活動しています。
起業家は“絶滅危惧種”
- 馬場
- 僕は2004年から、かなり多くの起業家と接してきた方だと思うんですよね。
だから最初は、「起業家って世の中にたくさんいるものだ」と思っていたんです。
でも実際には、むしろ希少種というか、“絶滅危惧種”に近い存在なんだなと感じています。
新しいことをやりたいとか、今のやり方を変えたいと思う人って、実はものすごく少ないんですよ。
キャズム理論でいう“アーリーアダプター”のように、新しいものに飛びつく人ですら一桁パーセントと言われています。
その中で、さらに「自分で新しいものを生み出そう」とする人は、本当にごく少数です。
多くのビジネスパーソンは、今ある仕組みを安定的に回すことが得意なんです。
特に中小企業では、「今のやり方を変えたくない」という人が大多数です。
だからこそ、起業家という存在は本当に貴重なんですよね。
僕たちは昔から、「その貴重な存在を支援しなければいけない」という思いで活動してきました。
最近は特に、「ちゃんと保護していかなければ、新しいものが生まれなくなる」という危機感を強く持っています。
起業家は放っておけば育つような存在ではないんです。
数が少ないからこそ、丁寧に支援していかなければ、経済そのものが衰退してしまうと思っています。
- 大場
- でも、私の周りには、自分で事業をやっている人も結構多い気がします。
- 馬場
- そこは、“自営業”と“起業家”を少し分けて考えた方がいいかもしれませんね。
例えば、ITエンジニアがフリーランスになる…これは働き方が変わったのであって、新しい事業や新しい価値を生み出しているわけではないんです。
もちろん素晴らしい働き方ではありますが、「起業家」というのは、新しいサービスや仕組みを生み出して、それを世の中に広げようとする人のことを指しているんですよね。
そういう意味で言うと、やっぱり本当の意味での起業家は少数派だと思います。
- 大場
- 一般企業の中でも、「世の中を変えたい」と思って動いている人はいますよね。
- 馬場
- いわゆる社内ベンチャーですね。もちろん、そういう人たちはいます。
ただ、社内ベンチャーには構造的な難しさがあるんですよ。
新規事業って、最初から利益が出るわけではありませんし、本業とは違うことをやるケースが多い。
すると、赤字を許容しながら進めなければいけない場面も出てくる。
でも企業組織の中では、それを認めるのが難しい。
だから、社内ベンチャーがなかなかうまくいかないケースも多いんです。
実際、それを専門に研究している人たちもいるくらいですからね。
「成功するまでやり続けること」
- 大場
- もし私が「起業したい」と思った時に、何から始めたらいいんでしょう?
- 馬場
- まず大事なのは、「自分が何をしようとしているのか」を説明できることですね。
MITベンチャーフォーラムがビジネスプランコンテストという形式を取っているのも、きちんと標準的なフォーマットで、自分の事業を説明できるようになりましょう、という意味があります。
僕はよく、「親戚のおばさんに説明できるようにしてください」と言うんです。
お正月の集まりなどで「今、何やってるの?」と聞かれた時に、専門外の人にもわかるように話せるかどうか。
技術が尖れば尖るほど、一般の人にはわかりづらくなります。
でも投資家も、その分野の専門家とは限りません。
だからこそ、「何をやっていて、どんな価値があるのか」を、わかりやすく伝える力が必要なんです。
そして、そのトレーニングに多くの時間を使うのが、メンタリングなんですよね。
- 大場
- 自分の思いや技術を、一般の人にも伝わる形に変換していく。
その壁打ちをメンターがしてくれるんですね。
- 馬場
- そうですね。その時間はかなり多いです。
支援者を増やすためにも、社員を集めるためにも、「何をやろうとしているのか」を伝えられなければいけない。
そして、それが将来的に本当に価値を生むものなのかを、問い続ける必要があるんです。
- 大場
- 一人で起業した時に限界を感じて、仲間を集めていくケースも多いですよね。
- 馬場
- 一般的には、複数人で起業することが多いと思います。一人ではできないですから。
例えば、開発をする人、営業をする人、財務を見る人。そういう形で役割分担をして始めるケースが多いですね。
- 大場
- さらに社員を増やしたり、会社を大きくしたりする時には、また別のステージに行く必要がありますか?
- 馬場
- 経営者としてやるべきことは、本当に山ほどあります。
だからよく、「準備してから始めるんじゃなくて、やりながら準備していくんですよ」と言っています。
スピード感は大事ですね。
昔からある例えで、「空から落ちながら飛行機を組み立てるようなものだ」と言うんですよね。
怖い例えですけど(笑)。
どの段階かにもよりますけど、長年経営を続けている人たちを見ていると、結局は「やり続けること」なんですよ。
成功の秘訣は何ですか?と聞かれたら、「成功するまでやり続けること」だと思います。
もちろん、それが難しいんですけどね。
人間はそんなに強くない。
- 大場
- でも、一緒に頑張る仲間がいたら、続けられる気もします。
- 馬場
- だからこそ、やり続けられる環境作り、支援者や仲間を持てるかどうかが重要なんです。
資金を得る、人を集める、応援してくれる人を増やす。
そういうリソースを獲得する能力が起業家には必要なんですよ。
それに、誠実であることも大事です。
嘘をつかないこと。ちゃんとコミュニケーションを取ること。
僕は、資金繰りに苦しむ会社をたくさん見てきました。
でも、お金がなくなっただけでは会社は潰れないんです。
銀行も投資家も待ってくれる。
倒産するのは、「この人はもうダメだ」と思われた時なんですよね。
AI時代、“人間力”がますます問われる
- 大場
- 最近はAIを使って事業計画書を作る人も増えてますよね。
- 馬場
- そうですね。実は僕も、大学の授業の中でAIを使った壁打ちは取り入れています。
ビジネスモデルキャンバスや、ビジネスプランのエグゼクティブサマリーくらいの分量であれば、AIはかなり短時間で形にしてくれるんですよ。それを“たたき台”として使いながら、自分なりのオリジナリティを加えていく。
そういう意味では、事業計画書を作るハードルはかなり下がったと思います。
ただ一方で、AIが出してくるものって、ある意味では「誰でも思いつくこと」でもあるんですよね。
だから、AIに丸投げしただけでは、たぶん勝ち残れない。
でも、「事業計画って、最低限これくらいは考えなきゃいけないんだな」という思考整理にはすごく役立つ。
優秀な部下としてAIを使う、という感覚が大事なんだと思います。
- 大場
- メンタリングの現場でも、AIってかなり入ってきてるんですか?
- 馬場
- かなり変わってきていますね。
以前だったら、環境分析や市場調査、ターゲット選定みたいなことは、コンサルタントに依頼しないとできない部分も多かった。
でも今は、AIがかなりのところまでやってくれるようになってきた。
去年のメンタリングでも、そういう使い方をしているケースはすでにありました。
だから今後は、メンタリングのやり方そのものも変わっていくかもしれません。
ただ、逆に言うと、情報量や分析力だけでは差がつきにくくなる。
これからは、「どうやって支援者を集めるのか」とか、「誰と一緒にやっていくのか」といった、人間力の部分がより重要になってくる気がしています。
頭の良さだけではなく、“人間味のある人”が強い時代になっていくんじゃないですかね。
- 大場
- AIとの向き合い方自体が問われる時代ですね。
- 馬場
- そう思います。
AIを使ったサービスも、これから山ほど出てくるでしょうし、インターネットが世界をつないだ時以上のインパクトが起きる可能性もある。
ベンチャー界隈は、また大きく盛り上がっていくと思います。
ただ、現実的には、AIサービスって意外と“ペイしない”という話も多いんですよね。
- 大場
- ペイしないんですか?
- 馬場
- 要するに、“ガソリン代”が高いんですよ。
例えば、「画像変換を簡単にできます」というAIサービスを提供したとしても、その裏側では大量の計算処理が走っている。
AIエンジンを動かすコストがかなり高いので、サービスとして成立しにくいケースも多いんです。
だから今後は、「どうやって低コストでAIを活用するか」というところにも、新しいイノベーションが生まれてくると思います。
そこには、まだまだ大きなビジネスチャンスがありますよね。
それと、AIが本格的に普及すると、大企業の事務作業の多くは置き換わっていくと思うんです。
そうなると、社員数そのものが減っていく可能性もある。
これからは、本当にアントレプレナーシップを持たないと、仕事そのものがなくなっていく時代になるかもしれません。
ただ、多くの人は、やっぱり「今まで通り」でいたいんですよね。
新しいことを嫌がる人の方が圧倒的に多い。
実際、AIを日常的に使っている人って、まだ全体で見ると一桁パーセントくらいじゃないかとも言われています。
AIを使っている人の周りには、同じように使っている人が集まるので、「みんな使っている」と感じやすい。
でも、社会全体を見ると、まだまだこれからなんですよ。
だからこそ、今使っている人たちの中から、いろんなアイデアや新しいサービスが生まれてくるんだと思います。
- 大場
- この前AIの勉強会で、「AIが仕事を奪うんじゃなくて、AIを使う人が、使わない人の仕事を奪っていくんだ」って聞いたんです。
- 馬場
- まさにその通りだと思います。
AIが悪いわけじゃないし、機械が悪いわけでもない。
昔だって、トラックがリアカーの仕事を奪ったわけではなくて、変化に適応した人が次の時代を作っていったわけですよね。
その変化が、これからすべての企業で起こっていく。
それをどう受け止め、どう使いこなしていくのか。
そこが問われる時代になると思います。
起業家そのものの数は、もしかするとそんなに増えないかもしれない。
でも、起業家がやらなければいけないことは、むしろどんどん増えていくんじゃないかなと思っています。
MIT-VFJは、派手さより“地道さ”を選んできた
- 大場
- 馬場さんは、MIT-VFJにいつ頃から関わっているんですか?
- 馬場
- 2004年ですね。もう20年以上になります。
- 大場
- それだけ長いと、時代の変化もかなり感じますか?
- 馬場
- 感じますね。応募してくる起業家たちが、その時代ごとの“フロンティア”を探しているので。
今ならAI関連のサービスが増えてくるでしょうし、以前ならITサービスやSaaS系のビジネスが多かった。
毎年コンテストを見ていると、「今、世の中はこういうことに関心を持っているんだな」という変化がよく見えるんです。
審査員の先生方も長年関わっていますが、毎年楽しみながら審査してくださっています。
- 大場
- 2004年当時と今では、応募者の業種や傾向も変わっていますか?
- 馬場
- もちろん、時代ごとの“旬”は変わります。ただ、私たちの組織自体は、あまり派手な方向には行かなかった。
他の団体は、インキュベーションプログラムを作ったり、ファンドを持ったりして、大規模化していきました。起業支援の機会自体はすごく増えたと思います。
でも、私たちは大きく形を変えず、地道な活動を続けてきた。
だから、ある意味では目立たなくなった部分もあるかもしれません。
ただ、実は今よく見かける「ビジネスプランコンテストの最終発表会」のフォーマットって、もともとは私たちが始めた形なんですよ。
プレゼンをして、途中で講演が入り、その間に裏で審査会をして、最後に表彰する――今では当たり前になっていますけど、当時はかなり先駆的だったと思います。
- 大場
- まさに先駆者ですね。
MIT-VFJの歩んできた道の一端に触れることができました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
馬場研二氏 プロフィール
日本MITベンチャーフォーラム理事・前メンタリングコミティチェア。FBAA日本ファミリービジネスアドバイザー協会理事
2001年より140年の歴史を持ち、グループ70社の持株会社である株式会社麻生においてグループ経営に携わり、経営戦略策定、新規事業企画等を所管するグループ経営推進部長を現任。赤字企業の再建、海外事業の企画、人材育成等にも幅広い経験を持つ。
2000年~2001年、NY本社のエグゼクティブサーチ会社ラッセル・レイノルズ社の東京オフィスにてIT業界リクルーターを担当。
1986年九州大学経済学部経済学科卒業、福岡銀行入社。企業派遣により、1991年Boston University MBA取得。福岡銀行では、国際部(東京八重洲)に約10年所属し、外国為替ディーラー、デリバティブトレーダー、外国証券投資管理、国際部門システム開発等に携わった。
福岡の起業家支援コミュニティ活動に参画中。メンターとメンティーが共に学び成長できる「場」の設定をミッションに、社内・社外を問わず起業家を支援し、企業の森を育てることをライフワークに、福岡ベースでグローバルに活動している。

聞き手 大場さおり
MIT-VFJ理事
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