INTERVIEW

水素市場の問題解決を目指し
水素社会の成長に貢献

VMP25ファイナリスト
株式会社pHydrogen代表取締役CEO 飛田 貴大 氏

第25回VMPファイナリスト、株式会社pHydrogen代表取締役CEOの飛田貴大さんに登場いただきます。

東大の高鍋先生との出会いで起業 Missionは水素の価格を安価に

小澤
年の瀬のお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。(インタビューは2025年12月末)
飛田
そうですね、私の年内の最後の予定です。
小澤
年納めのお仕事に選んでくださってうれしいです。
11月のビジネスプラン最終発表会では、タスク賞、TORUS賞、IT-FARM賞、正会員特別賞の最も優秀なビジネスプラン賞と最も優れたプレゼンテーション賞のダブル受賞と、大きな結果を出された飛田さんのお話を楽しみにしておりました。
大場
ではまずは御社のビジネスモデルについて教えてください。
なぜこのジャンルを選んだのかもお聞かせいただけますか。
飛田
我々はグリーン水素の価格を安くするというのがMissionで、新しい技術をベースにした水素を作るシステムの開発と販売をしています。
我々のプロダクトは水素そのものではなく、水素を作る装置です。
これをエネルギー業界などのお客様に販売していきます。
直近は特に港の水素需要に関心を持つ方が多く、ご提案の機会を頂いています。

事業選定をするにあたっては、30〜40年かけてドラスティックに変化が起こっていく分野で勝負をしたいと考え、大きくインフラが変わっていく次の3つに注目していました。
AIをベースにしたWEB3のようなもの、宇宙という新しい環境を作っていくようなもの、あとは脱炭素化で地球をサステナブルにしていくもの。
特に私が化学に関心があったので、それが直接活かせるマーケットとして脱炭素に着目し、最終的には東京大学の高鍋先生とのご縁もあり、グリーン水素という、石油燃料に替わる新しいエネルギーインフラを作れるというチャンスを感じました。
大場
元々化学をやってらっしゃったんですか?
飛田
大学時代は化学が専門でした。 ただ、その時は全く勉強していなかったのですが、化学というもの自体への関心や興味はあったので考えやすかったというのが正直なところですね。
大場
その先生はどんな方で、どんなビジネスを進めていらっしゃるんですか?
飛田
高鍋先生に出会ったのは 2023年の5月だったかと思います。
その時の私は、マーケットとチャレンジが必要な領域を調べる中で、どういったテクノロジーが大きな変化を起こせる可能性があるのかということを、いろいろな先生に会いながら勉強をしているところでした。
その中でお会いさせていただいたのが東大の高鍋先生で、もう会った時にこの研究室に行こうと思いました。

技術ももちろん素晴らしいものをお持ちですが、何より先生のアグレッシブさや、グローバルな視点に惹かれました。若くして海外に飛び立ちサウジアラビアでPIをやられた後に、現職として東大の教授をやっていらっしゃる物凄い先生です。
また先生ご自身も、研究に留まらないチャレンジを前向きに考えていらっしゃり、まずこの先生のもとで修行しようと決心しました。
2023年の5月の時点で東大に入ることを決めて、10月に入学し、そこから1年ほど研究をしていました。ここから今の会社ができたという流れです。
小澤
この技術を以て法人化していく、起業していくという中で、研究と起業ということが全く別のジャンルとして存在しますよね。
研究分野だけではなく、自分のプロダクトで自分自身が起業としたことについての志やエピソードなどはありますか。
飛田
もちろん技術は高鍋先生が第一人者です。先生が10年来やってきた中でアカデミックと会社の繋ぎになる部分を、たまたまタイミングよく私が研究させてもらい、プロダクトになるイメージを私自身が深めることができました。。
会社にした理由ですが、私は会社しかやりたくなかったというのが正直なところでして。 もちろん研究も楽しいのですが。
それこそ高鍋先生にお会いした時からも、いつか会社を作りチャレンジしたいという想いが前提にありました。 とはいえテクノロジーの専門性がないと絶対に勝負できない、だから修行させてくださいという形だったんですよね。
研究してきたことでいつか必ず勝負をするというのは決めていて、先生とも気持ちが重なり、このタイミングで舵を切りました。
小澤
高鍋先生との出会いというのは、偶然ではなく、起業の志や未来を変える力を飛田さんがお持ちだったからなんでしょうね。
飛田
なんとかそれを正解にできるようにやっていきたいと思っています。

2つのUSP 初期投資額を抑える 水素製造に不純物が混ざった水が使える

大場
水素を作る…どんな研究をして、どのように水素を作っているのですか?
基礎的なことですが、知識のない方のためにお話しいただけますか。
飛田
水素はいろいろな方法で作られるのですが、環境負荷の少ない方法で作るというのが1つの重要な観点で、最も注目されているのは水電解という反応です。
もしかしたら中学校とかの教科書に載っているかもしれないのですが、水に電気をかけると水素と酸素ができるという、ものすごくシンプルな反応があります。
それを洗練させ工業的に成り立つようにするというのが、水素製造の中での重要トピックになっています。
ただ、水素社会の成立にはコストが大きく下がらないといけないという問題に直面しています。
そこにアプローチできる技術を、先生が着目して開発されていらっしゃったので、これは非常に面白いと私自身も思いまして、先生の元に飛び込みました。
大場
水素を作ることによるビジネスモデルとはどんなものですか?
飛田
今のオイルメジャーや石油企業がやっていることを、それをそのまま水素に置き換えていくイメージですね。
そもそも水素の役割は脱炭素を実現することなのですが、一般的に再エネを使い、まず発電の脱炭素化をやりましょうというのが向こう15年ぐらいで進んできたことです。

ただ、どうしても電気で置き換えられないプロセスというのがあり、ケミカルプロセスや製鉄のようないわゆる産業用途と言われるものや、モビリティのような領域になります。
特に重い物を運ぶも船やトラックなどは、エネルギー密度の観点から電池ではなく水素が必要になるという位置づけになっています。
この領域でどのように水素を供給できるようにするのかが、これから立ち上がってくるビジネスになってきます。
大場
競合に対しての肥田さんの強みはどのようなものでしょうか。
飛田
私たちは2つのポイントに着目しています。
1つは、初期投資額を抑えられるところ。
もう1つは、海水や湖の水などの不純物が混ざった水が使える。
これが大きな特徴になっています。

コストが水素製造領域の一番の課題です。
コストの大きな柱は2つあり、1つが残念ながら初期投資額が高いこと。
もう1つは電気代が高いこと。
この2つにどうやって技術的なアプローチするかが大事です。
1つめの初期投資の設備投資額についてですが、金属材料に鉄を用いることの出来る装置になっており、そこを抑えられます。
もう1つは、使用する水です。
再エネが安い地域というのは、中東やインド、オーストラリアのように乾燥帯が多く、そもそも淡水へのアクセスが悪いのです。
もちろん淡水を作る装置を増やしてもいいのですが環境負荷の課題や、増やしても淡水が不足することなど根深い課題があります。
そのためできれば海水を軽微な処理で導入できるとか、世の中にある天然水源を使えるということが、彼らにとっての導入メリットになります。
結果的に再エネが安い地域での水素製造が加速する、そういうことが私たちの技術の特徴になっています。
コストの柱である設備投資額も、電気代も、両方とも下げる、そんな技術になっています。
大場
今どのようなビジネス展開をされているんですか?
飛田
ビジネス上の課題が2つあります。
1つは、エネルギー領域なのでトラックレコードが最も重要です。
実績をどのくらい作れるのかということがあるのですが、どれだけ早く展開できるがチャレンジになっています。

もう1つは、大型化。
コストはボリュームによる効果が大きいため、大型化しなくてはなりません。今年創業しましたが、スケールアップは少なくとも2回は必要です。
このスケールアップをどれくらい早くできるか、それに伴うコストダウンをしっかりできるか。
この2つが乗り越えていかなくてはならないポイントです。

そのため、研究開発に最もリソースを割いています。
もちろん初号機の評価も始めていますし、今後の量産化や大型化に向けての研究開発や、設置デザインなども進めている状況です。
事業開発は数年後の未来を提案しながら、研究開発と並行しています。

水素社会の成長に貢献し、自らの事業も拡大する未来

大場
これからの目標、目指す通過点・ゴールを教えてください。
飛田
今は、2035年くらいを見据えてやっていこうと思っています。
2050年のカーボンニュートラル達成ということが、水素の役割の1つです。
そうなりますと、2035年くらいから、一気にビジネス的にも成長し、しっかりとインフラになれるかという試金石が、水素という領域にあると思っています。
そこに貢献できるように、私たちもスケールアップしトラックレコードをしっかり作っていきたいと思っています。
足元は2026年には小型需要に対して実証を行い、2028年に再度スケールアップをして、2035年以降しっかりと勝負していけるように進めていきます。
小澤
かなりの資金が必要な事業ですが、VCからの出資など資金調達は現在どういう状況でしょうか。
飛田
2025年6月に3億円をシードで調達しました。
累計で300億円ほど必要なビジネスですが、マイルストーンを経ながら取り組んでいこうと思っています。

水素市場の1つの問題を解決する可能性を持つ事業

小澤
水素市場の遅れとおっしゃいましたが、私一個人も、もっと早く移行するイメージを持っていました。 推進していかないというのは、経済性の部分…コストがかかることも大きいようですが、その他の市場の問題点や、エネルギー移行の障壁となるものは何でしょうか。
飛田
よく言われるのは、コストとインフラの話ですね。 水素は、サプライチェーンとして製造し、供給、貯蔵して活用するという、フローになります。 この最初の製造の時点でコストがものすごく高いのです。 いくら後ろがついてきても、ここが解消されない限り、広がっていかないという課題があります。 インフラについては、運ぶという部分ですね。 運搬と貯蔵の部分ですが、ここがまだまだ明確には整ってない。 例えば船で運ぶことも含めて技術開発が必要です。 コストと運搬インフラのところが成熟しておらず、まだまだこれからというのが課題ですね。
小澤
そうなると飛田さんのプロダクトは、2つの課題を一度に解決するものになり得ますよね。
飛田
運搬のところはケースバイケースなんですが、製造のコスト削減は私たちがやるんだという思いで進めています。
小澤
メンタリング合宿での中間発表会で、港で海水を素材に水素を製造し、その場で港に供給するというお話を聞きました。
素材の水が真水でなくても、海水でも汚れた水でもいいということも大きな特徴ですよね。
海沿いだけではなく、内陸はもちろん、雨量の少ない中東などでも製造できることになるので、水素市場のブルーオーシャンに参入するのも可能ということですよね。
飛田
そうですね、おっしゃる通り、私たちもポジショニングは事業上も結構重要なので考えていたところです。
水電解装置を作っている会社は世界に200社以上あり、中国だけでも100社以上あるという、非常にコンペティティブな分野です。我々は海水や湖水などの天然に存在する水源にフォーカスすることで、他の会社と一線を画そうと思っています。
小澤
同じような開発をしている競合はありますか?
飛田
海水から水素製造に取り組むスタートアップが5〜10社出てきているところですね。直接の競合になります。
小澤
その競合は国内ですか?国外ですか?
飛田
すべて海外です。研究開発、事業開発のスピード感がとにかく重要な状況です。
小澤
日本のオンリーワンとしても、ぜひぜひ他国の競合に勝ってほしいと本当に心から思います。
飛田
事業もプロダクトもファイナンスも、常に課題だらけでありますが、しっかりやっていきたいと思っています。

MIT-VFJのメンタリングで変化した3つの視点

大場
なぜMIT-VFJ第25回ビジネスプランコンテストに応募されたのですか?
飛田
私はMIT-VFJメンターの西山さんからご紹介いただいて申し込みました。
この領域、この業界は、非常に経験値が重要でもありますし、ビジネス的にも難易度が高いと言われています。
いろいろなプロフェッショナルやご経験のある方が集まるところで、ビジネスが初期段階だからこそフラットに磨かせていただけるのは、ありがたい機会だと思い応募しました。
大場
MIT-VFJのメンタリングについて感想をお願いします。
飛田
もっと高い目標を持たなくてはならないと感じられたのが一番良かったところですね。
特にディープテックのこのスタートアップというのは、流行りものである一方で、投資額が大きいからこそ、いかに会社のバリエーションを数年単位でラウンドごとに正当化できるかというのは、本当に重要なことです。
ただ、それを実態としてどう成し遂げるかは、かなり難しい話だということも当然認識はしていました。
それをどう乗り越えていくかの具体的な経験値をお持ちの方がメンターだったので、そこのアドバイスをいただきました。
「我々のビジネスはこうだから」というより、「そもそも金融的に見たら会社というのはこういうものなので、こうあるべきだ」という部分を言ってくださいました。

もう1つは、一流のスタートアップはAIを使いこなしているということで、「なぜAIをどんどん盛り込めないのか」「AIに投資できてないのはどうなんだ」と指摘されました。

この2つは、今まであまり自分が強く持っていなかった視点だったので、とても印象的で大変ありがたかったです。
両方ともまだ全然対応できていないのですが、会社として身につけるべき長期的な、そして骨太なアクション項目をいただいたと思っています。
大場
このメンタリングを受けて、ビジネスプランは変わりましたか。
飛田
プラン自体は正直そこまで変わってはいないのですが、オペレーションの部分に活かせていると思っています。 まず1つは、いかにAIネイティブにできるように取り組むか。
少なくとも、社長という立場の人間がインストールできていないと、会社に落とし込めないので、私自身がどれくらい深く理解できるかが重要なポイントだと思っています。

もう1つは、「作る前に売る」という話をたくさんしていただいたのですが、本当にそうだなと思いまして。
我々は2回のスケールアップを考えていて、2回目のスケールアップはまだ先なのですが、「それでも売りに行く、そういうものだ」というマインドセットも植え付けていただきました。
実際今私はそのような提案活動をしているので、これを理解できたのはいい変化だったと思っています。
大場
作る前に売るというのは、実際のモノがまだできてないけれども、こういうコンセプトのこういうことができるものですと言って営業されるということですか?
飛田
3年後にこれを作りますと言いに行くイメージです。
大場
それまでは、実際にモノを作ってから売りに行こうと思っていらっしゃったのですか?
飛田
3年後にできる商品ではないですが、1年後にできる商品を販売することはもちろんやっていました。
創業して半年で、まずは初号機が動くかどうかというタイミングだったので、それを待って1〜2ヶ月後でいいかと思っていたんです。
しかし、それよりも、先にお客さんがいることの方が大事であるというと。

そもそもすごいビジネスはだいたいコンセプトが先にあり、そこで営業ができるから投資ができて、モノができるというプロセスで回っていることが多いと伺い、ここは考え方を完全に逆転させないといけないと思いました。
大場
メンターの新しい視点により、アプローチの仕方が変わったんですね。
飛田
そうですね。毎週のメンタリングは身が入り緊張するミーティングでした。
大場
メンタリングは週1回でしたか?
飛田
毎週お時間をいただいていましたね。
大場
メンターはどなたでしたか?
飛田
中野さんと入野さんについていただきました。メンタリングで変えていただいた視点を、今はとにかく高速でやり続けるフェーズでもありますし、もちろんそこでも様々なトピックが出てきているので、また応援をいただけたらと思っています。

良い意味で裏切られたメンタリング

大場
今後応募を考えている方たちへ、ひと言メッセージをお願いします。
飛田
私自身の体験としては、当初持ってなかった視点を得られたことが大きいです。
すごく失礼なことを申しますが、実は当初は正直そこまでのものとは思っていませんでした。
速いスピードで成長していかなくてはならないスタートアップとしてメンタリングを受けていましたが、既存の延長のような話をしていくのかと思っていたんです。
全く違う視点を入れていただいたことは、非常に強烈な体験をさせていただきました。
おそらく、ほとんどのファイナリストが、そのような経験ができるのではないかと思います。
そういう意味でもアプライされるのが非常にいいと思います。

一方で、なぜ僕が侮っていたかというと、このメンタリングの内容やメンターの方についてあまりにも想像がつかなかったためです。
私はいい意味で裏切っていただいたのでよかったのですが。
むしろそのあたりの価値をMIT-VFJの皆さんからも広くお伝えいただけると、ガッツのある人たちも意気揚々と応募されるのではと思いました。
小澤
有益なご意見をありがとうございます!
飛田
いえこちらこそありがとうございます。
私は、プロダクトも含めて、しっかりと、とにかく高速でやっていきたいと思います。
小澤
飛田さんはこのインタビューで2025年は仕事納めですかね。
飛田
そうですね。この後、大掃除を頑張りたいと思います(笑)
大場
2026年も素敵な年になりますように。
小澤
飛田さんの今後のご活躍とそのご報告を楽しみにしております。 このWEBサイトでもお伝えしていきたいです。

飛田貴大(ひだたかひろ) 氏 プロフィール

2019年に株式会社Nateeに創業メンバーとして参画し、事業開発および法人営業として戦略立案から実行まで一貫して推進。創業4年で従業員数50名超への急成長を牽引した。グローバルで戦うためにテクノロジーの専門性を身に付けるべく、2023年に東京大学高鍋研究室の修士課程へ入学。水電解システムの研究に従事。2025年にpHydrogenを設立しCEOを務める。

聞き手 大場さおり

聞き手 小澤みゆき

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