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メンターインタビュー 馬場さん、冬野さん

メンターインタビュー 馬場さん、冬野さん

今回のインタビューはメンター陣の中から、馬場研二氏と冬野健司氏のお二人にお話をお訊きしました。

プロフィール
馬場研二(ばばけんじ)
日本MITベンチャーフォーラム理事、メンター、前 メンタリングコミッティ チェア。
福岡を拠点に起業家の支援活動を行っている。
サイバー大学 IT総合学部 専任教員 准教授 として「起業入門」などの講義も行う。

冬野 健司(ふゆのたけし)
日本MITベンチャーフォーラム 副理事長 メンタリングコミッティ コチェア
NTTにおいてIT系ベンチャー投資・サポートの傍ら、自らネットバンクなどの起業に従事
2006年より当フォーラム活動にメンターとして参加

ベンチャー支援にはまってしまった


馬場研二氏

聞き手: まず、こちらでメンターとして活動しようと思ったきっかけ、想いを教えてもらえませんか。では馬場さんから。

馬場氏: 私は地元が福岡なんですが、2003年に、地元ベンチャーキャピタルの投資先企業を支援する会ができました。

そこにこちら日本MITベンチャーフォーラムの理事長が来られて、九州大学の中からベンチャーを出そうという活動をされたんですね。それに地元の我々が協力したのが始まりです。昨年度のBPCCで最優秀賞を受賞した伊達さんなどをコンテストに送り出すということから、我々の関係が始まりました。

聞き手: 2003年ぐらいだと、まだ「メンター」という言葉が世の中ではあまり使われていなかった頃ですね。

馬場氏: 我々の中では、当時のMITビジネスプランコンテストにはメンタリングというものがあるということを皆さん共通認識として持っていましたね。経営者の伴走者みたいな形でとらえていました。

聞き手: 冬野さんはどういう思いがあってメンターになられたのですか?

冬野氏: 私が就職した頃は「ニューメディア」というのがあってですね、その事業立ち上げをやっていたんです。

聞き手: キャプテンとかですよね。懐かしいなあ。

冬野氏: そうです、キャプテン担当でした(笑)。

それがそのうちにマルチメディアになって、NTTがベンチャーにいっぱい投資した時期があったんです。その時私はベンチャー投資の担当で、金融機関のVCじゃないので、ハンズオンで投資先に入るわけなんです。ハンズオンで入って、NTTのサービスとくっつけたりしながら、苦労して世の中に出すことしていました。でこの活動が結構面白かったんですよ。「おお、こんなアイデアがあるのか!」とかいう好奇心もあってズブズブと、ベンチャー支援にまってしまいました。

私自身はMITの卒業生ではないのですけど、MITの卒業生である会社の同僚に誘われてこちらに入りました。

聞き手: きっかけは会社の同僚に誘われたということですか。 そういうケースもあるんですね。

応募者の立場に立ったメンタリング
聞き手: ところで、日本MITベンチャーフォーラムのメンタリングの特徴ってなんですかね?

馬場氏: 我々のメンタリングの特長は、応募者、我々はファイナリストと言っていますけども、その人の立場に立って助言をすることです。例えばベンチャーキャピタルとか、証券会社とか、あるいは自治体の支援者は、彼らの立場でアドバイスしてきます。我々は必ず、応募者の利益を最大限に考え、第三者的、中立的な立場でメンタリングをやるというのが、他と全く違うと思います。

聞き手: 中立的な立場で、ですか。

馬場氏: だからこそ応募者が我々の言うことをちゃんと受け止めてくれる。我々と他の支援者の間でも色々利益相反の問題というのは起こるんです。昔、あるメンターが、あの投資家とは付き合わないほうがよいのではと言ったことが漏れてしまったことがあって事務局にクレームが来たこともあります。でも我々はやっぱり関係するステークホルダーではなく、起業家の立場に立って助言をしていっているわけです。

聞き手: 生々しく厳しい世界ですね。

馬場氏: そりゃもうそうです。資本政策は一番大事なところですから。ただ、我々は「どうこうしなさい」ではなくて「それについては他の考え方もあるよ」ということを伝えて、ちゃんと考えてもらうということを促します。そうすると他のステークホルダーが気にする場合もあると。

冬野氏: 余計なこと言うなとか。(笑)

馬場氏: だけど我々は、それがベストの選択かどうかをきちっと考えてほしいから、そういう多角的な見方を促すということです。

聞き手: なるほど、わかりました。たくさんの社長さんとのお付き合いがあると思うんですけど、何か特徴的に感じられていることってありますか。

馬場氏: まあ社長業って専門職なんです。起業するって社長になるということなんですけど、その意味が分かっていない方がほとんどだと思います。結局、技術者の人は、営業が分からなければ、管理、ファイナンスも分からない。だけど自分で全部やらなきゃいけないんです。で、あなたはどこができてて、どこができていない、ということを、きちっと理解してもらうというのが大事なことですよ。

聞き手: 理解できていない人が多いですか。

馬場氏: もう千差万別ですよ。皆さんそれぞれ自分の得意なフィールドを持っていらっしゃるから。それを我々は、社長業、経営者という括りでもって、客観的に見てあげて、「ここは弱いから、あなたは誰かを置かなきゃいけませんよね」とかいうことを助言するっていうことが、我々メンターの役割ですね。

聞き手: なるほど。

馬場氏: 我々のメンタリング方法が違うってよく言われる理由の一つは、そういうふうに全体的に見ているところでしょうか。「あなたの強みはここだけど、ちゃんと手当てしておかないと後々困るから、早めに、今のうちに人材獲得しておきなさいよ」というようなことが助言できる、とか。

外の目と中の目

冬野健司氏

聞き手: 冬野さんは、メンタリングをしているときに気をつけていること、ありますか。

冬野氏: ちょっと今の話の延長線になっちゃうかもしれないですけど、メンタリングをやっていて心がけているのは、外の目と中の目を一人の口から語ることです。営業に行って失敗したとします。お客さんは「いいですね」というけれども買ってくれない。外の目からみると、それには商品やサービスに魅力が足りないとか、何か理由があるわけですよね。だけどお客さんはそうは言ってはくれない。で、それを中の目で翻訳した話をしてあげるというのが我々のメンタリングの一つ特徴だと思います。

外から見て、僕が買い手だったらとか、僕が従業員だったらとか、僕が関係者だったとしたらどう見えるかというのは、必ず意識していますと。で、それを必ず翻訳をして話してあげるということを心がけています。

聞き手 :外の目、中の目ですか。

冬野氏: 二つ目は、我々は起業家一人に対してメンターを複数人つけるんです。すると、メンターとメンティー(応募者)の意見が相違することはもちろんのこと、メンター同士だって意見が合わないことがあります。最初のメンタリングの時にいつもこういいます。「メンターとメンティーは対等です。メンターは先生ではありません。主体はあなたです。アドバイスを聞く必要もありません、だけども、アドバイスを聞いて考えてほしいんです」と。

対等であるということ、あるいは議論に選択肢を設けるという意味で、我々はメンターを2人つけています。その中で、メンターAの突っ込みに対してメンターBがどうフォローしていくかとか、あるいはその逆とか、そういうことを考えながら、メンタリングを進めています。

聞き手: 対等に、そして選択肢を提示する、と。

馬場氏: そうですね。経営者の人は、自分で選択して決断をするんです。例えば、経営者の人が「今自分はこういう状態です」ということを我々に表明してくれたら、それに対して我々のアセスメント的なことを返してあげる。これができていないし、これをすべきだとか。その中から何をするかは、本人が選ぶと。ですから、そういう経営者としてのトレーニングにもなっているかなと思います。

聞き手: BPCC13で最優秀賞を受賞した伊達さんは、受賞前にもファイナリストに残られた年がありますが、前回と今回とで、何か変わったところを感じられますか。

馬場氏: それはもう、やっぱり大きく成長してるんじゃないでしょうかね。ここのところの経営者としてのフットワークの軽さというのは、かつてはありませんでした。こんなに世界を飛び回るようなことになるとは、すごく成長されたなと思いますね。

聞き手: 冬野さんは伊達さんに対して何か印象に残っていることってありますか。

冬野氏: BPCCのファイナルの前に1回、模擬でプレゼンやってもらうんですけど、そのときは「ああ、技術はいいけど、どうやって売るかよく分からないよね」みたいな感じがしていたんです。それが今では商流ができ始めている。そこが前回と今回の違いですね。彼の活動の中に変化が出てきているんだろうなあということは感じます。

コンテストはコミットメントを発表する場
馬場研二聞き手: ところで、起業コンテストには学生向けのもありますけど、それらとの違いは何でしょう?

馬場氏: 我々のBPCCはアイデアコンテストではないんです。やっている人を応援するものです。

聞き手: 既にやっている方がメインということですね。過去には学生の部もあったけれど、学生には厳しすぎる、ということでしょうか。

馬場氏: いや、そもそも、ビジネスプランを作るっていうのは、やることのコミットメントをする作業なんですね。だから社長が作ったビジネスプランを、代理人が発表しに来ました、というのを我々は受け付けないんです。「あなたがやるのかどうかを聞いているんです、プランの中身を変える決断ができる人がここに来て下さい。その場で変えて下さい、プランを」というやり取りが合宿であります。お勉強じゃないんです。

聞き手: 今も、スタートアップ部門は学生の応募も可能なんですよね。でも学生のファイナリストは少ないと。

馬場氏: 実際にやるという準備と覚悟をしている学生の応募が少ないから、今のところはそれが成り立っていないということではないでしょうか。学生の中で、やるというか、もうやっている方が来られれば、いくらでも我々は支援したいと思っていますし、過去にはファイナリストになった学生のかたもいます。

冬野氏: スタートアップの部門で優秀賞を取った伊東さんに感想を聞いたらこんなコメントがありました。

期間中の真ん中で合宿をやるんですけどそこで「隙をみつけて容赦なく攻め込んでくるメンターへの対応には正直、骨も折れたし、心も折れた」、けれども「入賞して、最後は米国大使公邸に招かれて、ああ報われたなと思った」と。

聞き手:他の方もこんな感じですか?

冬野氏: やっぱり「何かしたい」ってという思いがないと物事が始まらないです。授業の課題だからビジネスプランをつくるという話ではなくて、本当にビジネスをするんだ、という気持ちがないとメンタリングも成り立ちません。

志があるのが前提で、それをどういう風に実現するのか、ちゃんと続けていくにはどうするのかといった課題に対してメンタリングしますよ、という話なんですよね。

聞き手:プランのコンテストというというより、志が大事ということですね。

馬場氏: ビジネスプランという1つのフォーマットが認知され始めていると思います。会社でいえば事業計画書なんですけども、どういう風に自分は事業を進めていくのかということを、皆に伝えるわけですよ。それを我々はサポートすることによって、その事業の成功確率を高めるということです。

ただ私は優勝した人に対して「このコンテストで優勝すると、事業の成功確率は下がるかもよ」と言ったりしています。なぜかというと、優勝するとそのプランを認められたという気持ちになって、変えなくなるから。否定された人のほうが、このプランじゃだめなんだと思って書き換えるから、次のステージにいける可能性が高まるって僕は言ってます。プランていうのは、今の時点での暫定的なものですよっていうことを常に言ってます。

聞き手: コンテストが終了してからも、前の年の人から相談が来たりするんですか。

馬場氏: もちろんです。毎月、定例会がありますけど、そこに昔の出場者がよく来てますよ。そこでまたネットワーキングがはじまります。だから、これ終わりがない活動なんですよね。経営だから。

聞き手: 1回ファイナリストになると、長い付き合いができるわけですね。 単なるプランニングのコンテストではないですね。

冬野氏: 僕たちはプランニングというテクニックを問題にしているわけじゃないので、おっしゃるとおり、ビジネスプランコンテストじゃないですねと言われれば、そうかもしれないです。

馬場氏: でもそのツールとして、ビジネスプランはすごく使い勝手がいい。1つのパッケージとして、きちっと事業のまとまりを表明しなきゃいけないから。これは経営者のトレーニングとしては非常にいい機会なんです。

冬野氏: それはそうですね。

聞き手: どんな分野にもフレームワークがあって、まあ先人の知恵を使うと言うことだと思うんですけど、それを使わない手はないなと思いますね。

馬場氏: 既に会社を走らせている人には自身をチェックする機会になるということでお勧めしているんです、我々。

コンテストは自分を客観視する場である
聞き手: この記事を読んでるなかに応募やメンタリングを希望するかたがいると思いますが、メッセージをいただけませんか?

馬場氏: やっぱり自分の考えていることを、第三者に見てもらえるっていう、非常に貴重な機会になります。助言がもらえるということですよね。ですからそういう機会を手に入れて、それで自分の事業の成功確率を高めていってほしいなと。

聞き手: 初めは書類審査なんですよね。こういう書類はチェックしていて自分もわくわくしてくるとか、逆にこういう書類は、何かもうすぐ読むのもいやになるみたいなことってありますか。

馬場氏: それはもう、本人が意欲的にそれを書いているかどうかですね。これをやりたくて、どうしても前へ進みたいからこうやっています、というようなこと。何かこんなサービスや商品があったらいいなあと思ってます、ぐらいの話じゃだめだということでしょう。

聞き手: 既にこれをやっていますとか、そういのがあったほうがいいんでしょうか。

馬場氏: 「それは何のために」という自分のビジョンがそこに入っていて、それをどうやって実現しようとしているのかっていう真剣さというものがあれば、我々は積極的に応援したくなります。

冬野氏: 時々ね、書いてある内容の半分くらいが職務経歴書だったりするんです。半分ぐらいが世の中の統計で「けしからん」ということだけが書いてあるようなものもあります。こういうのは、応募者が何をするつもりなのかが見えてこないですね。確かに最初は問題意識からスタートするんだろうけど、粗くても、志を持っていただかないと、やっぱり、読んでいてもなあ…という気がします。新橋の居酒屋で飲んでるおっさんの愚痴みたいに、「世の中けしからんのだ」だけ、ずっと書いてあってもですね…。そこから先、自分がどうやっていくのかという志のところですね。

馬場氏: 僕はまずビジネスプランを書いてみることを勧めています。どんなものであっても、まず書いてみる。それで通らなかったら「じゃあ通った人のはどんなものだろう」っていうのを見ることによって、ものすごい学びが得られると思います。

悩みたい人に来て欲しい
冬野健司聞き手: 分かりました。冬野さんのほうも、この記事を読んでいる方の背中を押すようなことを言っていただけると嬉しいです。

冬野氏: 僕はね、最近はちょっと辛口になってるんですけど、ビジネスプランコンテストに参加して悩みたい人に来てほしいんですよね。

聞き手: 悩みたい人に来てほしい?

冬野氏: 考えたい人。「これはすごいだろう」っていうことを言うために来てもらっても、クリニックにならないんですよね。それから、出せばなんでもかんでも、手取り足取り教えてくれて、終わってみたら目の前にビジネスプランが出来上がってる、と思う人には来てほしくないですよね。結局、主体はいつでも自分で、考えるのも辛いんですよね。で、その苦労を一緒にシェアしてやっていくのがメンタリングだと、僕は思っています。1か月なり2か月の間に、苦労して考えたいという人に来てほしいんですよね。

聞き手: まずは書類審査に通らなくては、ですね。

冬野氏: 我々の審査員は応募書類には全部コメントを付けて返しています。その理由は、コメントの中で1つでも引っかかるものがあれば、メンタリングは受けれないかもしれないですけど、その人なりに次のステップに進めると思っているからです。そういう意味でも、まず書いてみる、応募してみる、人の目に晒してみる、というのは貴重なことですね。

聞き手: そうですね、僕も書いて見ようかなという気にちょっとなりましたね。(笑) どうもありがとうございました。

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