INTERVIEW

BPCC14ファイナリスト 株式会社ネクストベース社長 中尾 信一 氏

MIT-VFJ登録メンターが徹底したメンタリング・アバイスを行い、事業計画の見直しやブラッシュアップを経て最終審査発表会に至るコンテスト形式のプログラム、ビジネスプランコンテスト&クリニック(BPCC)(2001〜2020年)を経て、2021年からはベンチャーメンタリングプログラム(VMP)と名称を改め、より一層メンタリングに重点を置いたプログラムに変更されています。

今月は、BPCC14で『野球ノート〜 練習の可視化と共有で日本のスポーツを強くする 〜』というテーマでファイナリストになった株式会社ネクストベース社長の中尾信一さんにご登場いただきます。

ビジネスプランコンテスト (BPCC)に応募されたきっかけを教えてください。

中尾

新卒でNTTに入社し、本社で金融系ビジネスを5年間やりました。
そのビジネスを立ち上げた方がMIT-VFJ理事の冬野さんで、冬野さんと私は入れ違いで携わっていました。
35歳の時に退職し、NTTの同期とベンチャーを始めたのですが、そのあたりから冬野さんから定期的にアドバイスをいただいています。
そのベンチャーは6年間やりましたが、海外ではスポーツとITの融合事例が出始めていて、自分もやってみたいと思うようになりました。
冬野さんから「今度は何をやるんだ?」と聞かれお話ししたところ、こういったコンテストがあるよと、BPCCを紹介いただきました。

当時、メンタリングを受けられた成果はありましたか?
どのようなものだったか、可能ならご紹介ください。

中尾

成果はたくさん感じていますが、一番の印象は頭の中をグチャグチャにされたことです。
当時の私は、なんとなくぼんやりと自分の中で考えながら、若干凝り固まったイメージでビジネスプランを作っていた感じがします。
メンターは藤井さんと谷口さんでしたが、藤井さんに頭の中をメチャクチャにされました。(笑)
さまざまな視点で指摘が入り、「これはまとまるのか?」と思ったのですが、グチャグチャになったところで谷口さんがフォローしてくれる、絶妙なコンビでした。
結果的には頭の中はグチャグチャのまま、BPCCは終わったという印象があるのですが、おかげで広い視点からビジネスプランを考える癖がつきました。
また、三浦海岸でのメンタリング合宿では、ほとんど寝ずに取り組んだことが印象に残っています。
お二人には本当に親身になって対応いただきました。
私は「野球ノート」というタイトルのプロジェクトでしたが、藤井さんは「あなたの言ってることはわからない」とおっしゃるので、一緒に少年野球チームに行きました。
子ども達がどのような反応をするのか一緒に確かめに行っていただき、スマートフォンで子ども達の投球動作の確認や球速の計測ができると子ども達が喜ぶということで、それで方向性が定まりました。

BPCCで発表した時には「このままBtoCのビジネスをいきなり始めたら資金ショートするから気をつけた方がいいよ」と、亡くなられた、当時の理事長の鈴木啓明さんに言われました。
実際のビジネスはプロ野球をターゲットにしたBtoBから始め、シャワー効果を使ってアマチュア向けのBtoCに…という形で組み直したことは本当に良かったです。

昨年の8月末に千葉県市川市にラボを作ったのですが、もの凄く反響が良くて、11月上旬には12月までの予約が埋まりました。
ラボの方もまずはプロ野球選手が活用して、その後に、社会人、大学、高校、中学のアマチュアの方々が予約を取って来てくれています。
あの時の鈴木啓明さんの言葉が凄く効いているなと思います。

最終審査発表会の時は、どんな気分でしたか?自信はありましたか?

中尾

頭の中がグチャグチャのままでしたので、自信があったかというと、まとまらないまま終わったという印象です。
冬野さんから「絶対勝つつもりで!」と叱咤激励をいただいて、「プレゼンは練習を100回やれ」「ソラでできるようにしろ」と言われていました。
冬野さん、藤井さん、谷口さんが何度か付き合ってくれてプレゼン練習したこともよく覚えています。
藤井さんの無茶振りなのですが「本番で上がらないために一番恥ずかしいシチュエーションで練習しろ」と言われ、「なんですか、それ?」と聞いたら、「奥さんの前でプレゼンの練習をしろ」と言われました。 結局「はい」って言いながらやりませんでしたけど…(笑)
でも、本番前までに200回は練習しましたので、当時もあまり緊張しなかったですし、最近でも多くの方々を前にした講演もほとんど緊張せずに済んでいます。

BPCCのメンタリングを経て、中尾さん自身の取組みや、貴社の事業に変化はありましたか?
あるとすればどのような変化でしたか?

中尾

繰り返しになってしまいますが、無謀にBtoCにいかなくて凄く良かったということがあります。
指摘いただいたことで慎重に考えるようになりましたので、最初はBtoBでプロ野球の巨人と阪神、中日とのお付き合いから始めました。

スポーツ科学を活用したデータ解析の市場がまだなかったので、その市場を作りながらBtoBで、財務基盤を多少安定させていきました。

プロと付き合っているということで、我々の認知度が高まり、その戦略が結果として見事にハマっていったという感じです。
実績を残さないといけないというプレッシャーはありましたが、プロ野球では中日ドラゴンズのチーム防御率を12球団でNo.1にすることができました。
また、契約しているプロ野球の個人選手も順調に成績を残し、当時の年俸6百万円からその後の4年間で1億7千万円になりました。
アマチュア野球での実績も挙がっています。
社会人野球の都市対抗野球大会では、サポートしているチームがここ数年は優勝、準優勝に名前を連ねています。

高校野球の話はあまりオープンにしてないのですが、今年(2023年)の夏の大会で優勝した慶応高校と準優勝の仙台育英は、2チームとも我々のラボで測定してアドバイスしたチームです。

ですので、プロ野球からアマチュア野球へとシャワー効果を使ったということは、今になって更に本当に良かったと実感しています。

貴社、あるいは中尾さんが現在新たに取り組まれていらっしゃること、将来的に目指すことなど、差し支えない範囲でご紹介ください。

中尾

ラボは、プロ、社会人にはずいぶん浸透したのですが、今後は、大学、高校、中学校あたりにもデータ解析や動作解析というものをしっかりと定着させる活動をしたいと思っています。
ありがたいことに、夏の高校野球の優勝・準優勝校が使っているということが噂になって広がっており、スポーツ科学を活用したデータ解析の市場が少しずつ形成されていることを実感しています。
データ解析・動作解析をやると効率的に最短距離で育成ができますし、不用意にケガをしないで成長ができるので、さらに広げていきたいと思っています。

もう1つは、BPCCの時に「野球ノート(アプリ)を作りたいです」とプレゼンしましたが、アプリもちゃんと作っています。
ピッチャーの投球速度の計測や、バッターの打球速度や打球角度が計測できるアプリケーションを開発しています。
今はまだベータ版ですが、意地でも完成させるつもりでいます。

スポーツの競技ルールは世界統一ですので、将来的にはアプリを多言語化して世界展開も見据えています。

また、大リーグの某球団から「おまえらのやっていることはめちゃくちゃおもしろいから話をしよう」とメッセージをいただき、この取材のちょっと前まで、その球団の社長やGM、その他データ解析のメンバーが参加したzoomミーティングをしていたところです。

現在、サッカーの解析サービスの要望もいただき、キック力の解析をやり始めました。
野球も順調ですが、サッカーの引き合いも増えています。
野球は日本国内では人気ですが、海外では3,000万人くらいしか競技人口がいませんが、サッカーは3億人くらいいるので全然スケールが違います。
サッカー協会の上層部の方からも「こういうのはどんどんやらなくてはいけない」という前向きなコメントをいただき、大手企業と連携した取り組みも進んでいます。

会社のメンバーに恵まれていますし、株主の皆さんにも、「やっていることは凄いから、がんばってみなさい」と応援いただいていますので、これまで以上に頑張っていきたいと思っています。

MIT-VFJは2021年より、コンテスト形式から、応募者のビジネスプランがメンタリングによってどれだけブラッシュアップされたかを見ていくプログラムVMPに変わりました。
ボランティアをベースとした我々の活動に対し、期待されることがあれば教えてください。

中尾

ひと言でいうと、感謝しかないです。
いろいろな角度からビジネスを見られるようになり、ブラッシュアップできるようになったことは自分でも感じますし、BPCCやVMPに参加された他の方々もそういう実感は持っているのだと思います。
運営はボランティアベースで大変だと思いますが、ぜひ今後も継続していただきたいです。
余裕ができたたら、自分も協力したいと思っています。
経営していると実感しますが、経営者は孤独になることもあるので、MIT-VFJのイベントに参加したメンバーが今の悩みなどを共有できる場が今後も継続して開催されるともの凄くみんな助かると思います。

12月2日の最終発表会に向けて、現在各チームともエンジン全開でメンタリングに励んでいます。
ファイナリスト候補の皆さんへ、先輩としてアドバイスとエールをお願いします。

中尾

3ヶ月のメンタリングが終わってみると、この期間があって良かったと思えるものですので、担当されるメンターに正面からぶつかっていきながら、その時その時を一生懸命にやって欲しいなと思います。
賞を取れるかはどうかは、その時の審査員メンバーの評価だと思っていますし、「受賞したビジネスプランでも実際にビジネスがうまくいくかどうか分からないのだから、そういうつもりで頑張りなさい」と冬野さんに言われたことをよく覚えています。
自分の目指したい方向、自分の見えている未来を信じて諦めずに頑張っていくことが一番必要なことだと思います。
とにかく今は一生懸命、メンターの方と対峙しながら、がんばって本番を迎えて欲しいです。

 

中尾 信一 氏 プロフィール

立教大卒。
1997年に日本電信電話株式会社に入社し、主にIT系新規ビジネスの企画営業業務に従事。
2008年にITベンチャー企業を設立し、取締役副社長として新規系ビジネス開発に従事。
デジタルサイネージ事業等を主導。
2012~13年はW3Cメンバーを務める。
2014年に株式会社ネクストベースを設立し、プロ野球界を始めとしたスポーツ界に対してスポーツ科学を活用したデータ解析や動作解析などのサービス開発・提供をしている。

INTERVIEW一覧へ